よく競馬において、「手前を替える」という表現が使われます。
そもそも、手前を替えるとは、どのようなことを言うのでしょうか。
そもそも手前とは
馬が走る時、前脚を同時に踏み出すことはできません。必ず、どちらかの脚を先に出して走ることになります。人間もそうですが、馬にも「右利き・左利き」というものがあると私は考えてます。ここで、右手前・左手前の違いを見ていきましょう。
右手前とは
右手前とは、左脚を先に着け、右脚を後に着ける走り方。
写真で見ると、右脚が前に来る走り方ですね。実際、写真で見てみましょう。
1番の白帽子の馬の脚を見てください。
左脚を先に着け、右脚が前に来ている状態。これが右手前です。
どういう時に右手前で走るかというと、右回りコースのコーナーです。
右回りでは、右手前で走らないとコーナーで大きく外に膨れてしまいます。
ですが、右回りでずっと右手前で走ってしまうと疲れてしまいます。
ですので、最後の直線部分では「左手前」で走ることで疲労を分散させます。
つまり、右回りコースでは
コーナー → 右手前
直線 → 左手前
で走るのが一般的です。
左手前とは
左手前は右手前の逆ですね。
右脚を先に着け、左脚を後に着ける走り方。写真で見ると、左脚が前に来る走り方ですね。
これも、実際に写真で見てみましょう。
15番のピンク帽の馬を見てください。
右脚を先に着け、左脚が前に出ています。これが左手前です。
コーナーと直線の走り方も右手前と真逆です。
左手前で走るのは、左回りコースのコーナーです。
まとめると↓
右回りコース
コーナー →右手前
直線 →左手前
左回りコース
コーナー →左手前
直線 →右手前
利き脚とは
人間でも右利き、左利きがあるように、馬にも利き脚があると言いましたが、実際に右回りだけが得意な馬、左回りだけが得意な馬というのがいます。
例えば、ディープインパクトは「右手前」が得意だと言われています。
東京競馬場のような左回りコースでは、最後の直線が「右手前」になるため、直線だけで他馬をごぼう抜きすることができます。
一方、右回りでは最後の直線が「左手前」になります。ディープインパクトが唯一国内で負けた1度目の有馬記念は、先行したハーツクライを最後の直線で捉えることができませんでした。
しかし、引退レースとなった2度目の有馬記念では、最後のコーナーで武豊騎手がスッと促し、直線の入り口では先頭に立ち、見事1着。つまり「右手前」が得意ということは、右回りのコーナーが得意だということになります。ディープインパクトが右回りで勝っている時は、コーナーでスッとポジションを上げているのも納得ではないでしょうか。
では、最近で最も分かりやすい例である「スワーヴリチャード」という馬を見ていきましょう。
まぁ、手前の説明で使った写真も、すべてスワーヴリチャードなんですが(笑)
スワーヴリチャードという馬
スワーヴリチャードは、3歳クラシック時点で「左回り」が得意な馬として有名でした。
調教師の方もおっしゃっていましたが、とにかく右手前で走るのが好きな馬だと。
実際、3歳時に馬券外に飛んでいるのは皐月賞と有馬記念の2回。両方とも「右回り」のコースですね。
普通、右回りコースでは、「コーナーを右手前、直線を左手前」で走ります。
しかし、このスワーヴリチャードは「右手前」が好きすぎて、最後の直線も右手前で走ってしまうのです。
実際に写真で見てみましょう。
これは、4着に敗れた有馬記念の最後の直線です。
一番外のオレンジ帽がスワーヴリチャードですが、「右手前」で走っていることが分かります。
他の馬はすべて「左手前」で最後の直線を走っています。青帽のシャケトラが一番分かりやすいですかね。
右回りということは、当然コーナー部分は「右手前」で走っているわけなので、最後の直線は疲れていない「左手前」で走らないと伸びないことになります。
結果的に、この時は疲れたのか直線で斜行してしまい、他の馬に迷惑をかける形になりました。
それに比べ、左回りではスムーズに最後の直線で自慢の「右手前」を披露できるため、強さを発揮します。
3歳時の共同通信杯の写真を見てみましょう。
綺麗に右脚が前に出て「右手前」になっています。
実際、左回りでは直線で鋭い差し脚を発揮できています。
そんな前評判の中、挑んだ4歳時のGⅠ大阪杯。
右回りの不安が囁かれる中で、M.デムーロに導かれ1着に。
なぜ、大阪杯でスワーヴリチャードが勝てたのか分析します。
なぜスワーヴリチャードは大阪杯で勝てたのか
理由は2つあると思います。
1、右手前が得意という点を生かしたミルコの捲り
2、直線で左手前が使えている
1、右手前が得意という点を生かしたミルコの捲り
ディープインパクトの話の時にもお話しましたが、「右手前」が得意ということは、右回りのコーナリングが得意ということになります。大阪杯は内回りの2000mなので、最後の直線が短く、「左手前」が得意でも、その強みを生かせずに終わってしまうことが大いにあります。
ましてや、スワーヴリチャードは「左手前」が苦手なので、強みである「右手前」を生かせるコーナリングで他馬より優位に立つという騎乗は、ファインプレーだったと思います。
この時はペースも遅かったので、それを見越した捲りだったと思いますが。
2、直線で左手前が使えている
今までは、右回りの最後の直線で「右手前」で走っていたスワーヴリチャードが、大阪杯では「左手前」が使えています。写真で見てみましょう。
左手前の説明の時も使った写真ですが、これは大阪杯のゴールシーンです。
15番スワーヴリチャードは「左手前」で走ることができています。
厩舎側の努力もあると思いますが、馬自身の成長も立派ですね。
「右手前」が得意な点を生かしたミルコのファインプレーと、馬自身の成長がもたらした、大阪杯での勝利だったと思います。
このように、馬によっては「左回りが得意な馬」「右回りが得意な馬」がいます。
それには、「手前」が関係していることが多いです。
手前に注目してレースを見てみてはいかがでしょうか。